私は高校2年生の時に日本を出てイタリアのスキー学校に入りました。そして、今はイタリアのクラブチームでクロスカントリースキー選手として活動しています。

「イタリアでスキー」と聞くと意外に思われる方が多いかもしれませんが、実はイタリアはウィンタースポーツにかなり力を入れている国です。特にアルペンスキーは世界でもトップクラスの国。近年は、中でもクロスカントリースキーに力を入れており、世界のトップで活躍している選手もたくさんいます。

私はトップ選手たちの中で自分がどこまで通用するのか、どこまで強くなれるか試してみたい、という思いから、イタリアの地で挑戦していくことを決めました。

恩返しはスキーで！そのためにもイタリアで挑戦を続ける

イタリアへ来て最初の頃は、正直いって英語もイタリア語もわからない状況で、言葉の壁を感じたのは事実です。しかし、言葉が通じない、という困難な状況にありながらも、周りの友人やコーチ、地域の方々に支えられて、ここまでやってくることができました。今後も私のことを助けてくださった方への恩を忘れることはないと思います。

私は、「お世話になった方々に、ぜひ、自分ができることで恩返しをしたい」と痛切に感じています。だからこそ「イタリア選手権で優勝したい！」というのが今の正直な自分の気持ちです。

「優勝すること」こそが、今日まで応援してくれている皆さま方への恩返しになると思うからです。そのためにも、これからもイタリアで挑戦を続けていきたいと思います。

「どうしてイタリアなの？」と尋ねられることがあります。

実は、私には高校生の頃から、とにかく海外に行ってみたいという思いがありました。当時は、来る日も来る日も過酷な練習の日々でした。しかし、いくら練習を重ねていても、なぜかスキーそのものが楽しく感じられず、目的を失ってしまっている自分がいることに気づきました。スキーで挑戦することの意味が見いだせなくなっていたのです。

そのような状況に戸惑う中、縁あってイタリア行きの話を頂いた時、私は迷うことなくイタリア行きを決断したのでした。

誰も知り合いがいない環境に身を置きたい、というのもイタリア行きを決めた理由の一つでした。

言葉も一切通じない中、どれだけ自分が人間的に成長できるのか、そしてどこまでスキー選手として強くなれるのか、自分の可能性を知りたい、そして新たに自分自身を試してみたいという気持ちがあったからです。

忘れていた気持ちをイタリアで実感できた！

北欧の他国と比較すると、イタリアのスキーのレベルは、少し劣るようですが、それでもW杯で優勝している選手がいることも事実です。

イタリアにいれば、力のある選手と一緒にレースすることができます。レースを通じて、力のある選手と自分との差を直接感じることができる、そのような経験は日本では望めません。ここでは毎レースが常に自分にとって勉強になることばかりなのです。

イタリアに来た当初のレースは、同年代の選手に圧倒的な差をつけられることがほとんどでした。しかし、コーチや同僚などと、少しずつコミュニケーションを取りながら練習を続けていくうちに生活環境にも慣れてきて、次第に変化を感じるようになりました。

自分の弱点や食事、私生活などを見直しながら、「なぜトップの選手は強いのか」と考えるようになったのですが、理由を考えること自体が楽しくなっていったのです。そして、日本にいる頃には考えられなかった気持ちを実感するようになりました。

世間では、W杯、オリンピックなど、まずは大きな大会での成績を意識する人が多いのではないでしょうか。私もW杯やオリンピックで一番になる方のはかなり難しいことである、ということは承知していますし、偉大なことであるというのも理解しています。

しかし自分にとっては、あえてスキー選手としても人間的にも成長することができたこのイタリアで一番になることに、何より意味があるように思えるのです。

そして、「イタリアで一番になる」という壁を越えられた時、日本では経験することのできない何かを得られる、という気がしてなりません。私は今後も、私自身の気持ちを大事にして、自分の目標にこだわって努力していきたい、そして走り続けていきたいと思います。