GO BEYOND な 人
上山敦司(ウエヤマアツシ)
写真家
50歳手前で人生への刺激を求め、
写真家として再出発
学生時代から趣味として続けてきた海外での写真撮影。バックパックを担ぎ、カメラを首からぶら下げて現地の人や風景を撮る。訪れる国と日程だけ決めて、そこから先は行き当たりばったりというのがこれまでの旅のスタイルでした。大好きなクリエイティブな仕事をしながら、合間をみて海外に行くスタイルは当時の自分には合っていたように思います。
しかし、50歳という年齢が見えはじめた時、さらにワクワクできることがしたいと思うようになりました。そこで長年お世話になった会社を退職することを決意。これまでのキャリアを一旦白紙に戻し、50歳にして写真家としてスタートすることになりました。
サンチアゴ巡礼道の旅を以前より計画していましたが、旅をはじめるにあたって、資金集めと活動告知が必要でした。そこで2016年、500冊の2017カレンダーを制作。これまで撮りためた写真にメッセージを添えて作ったものです。
仲間に協力してもらいながら、駅前で何度も路上販売を行いました。そうした活動と仲間の支援によって無事完売。旅の足がかりにすることができました。
そして資金をもとに、いよいよ2017年4月から3ヶ月間、ヨーロッパのサンチアゴ巡礼道、撮影の旅をはじめました。サンチアゴ巡礼道は、スペインの北西端サンチアゴ・デ・コンポステーラという聖ヤコブが葬られている教会へとつながる道です。
ここはローマ、エルサレムと並んでキリスト教の三大聖地であり、ヨーロッパには、サンチアゴに続く巡礼道が数多くあります。そのうち、今回歩くのはフランスのル・ピュイをスタートしサンチアゴ・デ・コンポステーラまでの1600km、約80日の工程です。
巡礼道には名前がついており、前半が「ル・ピュイの道」800km、後半が「フランス人の道」800km。必要な装備とカメラ機材を詰め込んだバックパックを担いで巡礼道の旅に出ました。
旅では、巡礼者、現地の人々、風景を写真におさめ、帰国後にはおさめた写真をもとに、個展や講演、将来的には写真集や本など著作物の制作を行っていきたいと考えています。
3つのチャレンジを達成するためのサンチアゴ巡礼道の旅
サンチアゴ巡礼道の旅では、3つのチャレンジがありました。
1つは巡礼道1600kmをおよそ80日で歩くこと。これまで移動手段としてバスや列車、自転車を使った旅の経験はありますが、歩くのははじめてです。しかも、カメラ関連機材もあるため荷物の重さは通常の倍となる18kg。荷物が重すぎるため、巡礼経験者からは無理だ、考え直すようにと言われました。
再考を重ね装備を新調しましたが、残念ながらたいした減量にはならず。それならせめて自身の体重を減らそうと決断しました。
1年で14キロほど落とし体が軽くなり、足への負担も軽減。ただ、登山の経験も少なく、歩くことに関してスキルのない自分が、いかにしてゴールを目指すのか、それが1つめのチャレンジでした。
2つめは、たくさんの人と出会い、写真を撮り発信することです。カメラは記録や表現ツールとしてだけでなく、コミュニケーションツールとしても使えます。語学が堪能でなくても、話すきっかけを作ってくれるのです。
道すがら、あるいは宿で、巡礼者や現地の人たちと語らい、世界のいろんな考え方や価値観を吸収したい。文化も慣習も違う人々の考え方に触れることで、画一的になりがちだった日本の枠を超えていきたい。そして自分が感じたこと、得たことをSNSや講演、本などのツールによって発信したいと考えています。
こうした活動により、日本という枠を飛び出していく若者を応援し、よりよく生きようとする人たちへのヒントになればと思っています。
3つめは、50歳という年齢にして写真家という新たな道に進むことです。
50代は自分の仕事の集大成の時期であり、締めくくりの年代なのかもしれません。しかし、あえて再びゼロから新しい道を歩みたいと思いました。「よりワクワクできる方向へ」、そして「年齢ではなく、熱意だ」という想いのもと、写真家としての活動をスタートさせます。
その第1段がサンチアゴ巡礼道の旅です。これからの活動の足がかりとなることを1つでも生み出すよう、巡礼道を歩いてみました。
昨日の自分を超えていく旅へ、50歳からはじめる挑戦
50歳の冒険は、まだはじまったばかり。これからの旅が、“GO BEYOND=超えていく”をもたらしてくれると感じています。
2017年のサンチアゴ巡礼道の旅では、毎日平均20km、歩きで峠や山を越えていく予定です。スタートの地であるル・ピュイの4月最低気温は2度。スペイン中部においては、7月に40度を超えると聞きます。少し過酷な道のりと環境にはなりますが、距離と日程を考慮し、休息日は基本的には設けていません。
ただやはり、生身の体を頼りに歩くため、天候や道中の環境に大きな影響を受けます。とにかく想定できることを洗い出し対策も考えてはみましたが、それでも、体力的にきつくなり、精神的にも追い込まれることもあるのだと予想しています。
その時に自分をどこまで信じられるのか。また、どのように判断することができるのか。その先に見える未来の自分を想像しながら、昨日の自分を超えていきたいと考えています。
GO-BEYONDER No.097
写真家
上山敦司
1967年、京都府舞鶴市生まれ。1991年、香川大学経済学部卒業後、大伸社マーケティング部にコピーライターとして入社する。退職後の2002年には、ロケ撮影コーディネート会社であるキーゾーンL.D.B.設立に参加。以来、大阪・神戸・京都を中心に関西全般でロケーションコーディネーターとして、CMやポスター、カタログなどの広告撮影に従事してきた。2015年8月、写真家を目指してキーゾーンL.D.B.を退職。2017年に新たな挑戦、50歳の冒険である、サンチアゴ巡礼道1600kmの旅へと出発した。
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